私たちの暮らしと大きくかかわる相続法が2019年7月に改正されました。
2019年1月13日から段階的に施行されていきます。
- 【2019年1月13日スタート】自筆証書遺言の方式緩和
- 【2019年7月1日スタート】 預貯金の払い戻し制度の創設
- 【2019年7月1日スタート】特別の寄与の制度の創設
- 【2020年4月1日スタート】 配偶者居住権の新設
- 【2020年7月10日スタート】遺言書の法務局での保管制度の創設
相続法とは、どなたかが亡くなった時に、
その人が残した遺産を、誰にどのように引き継ぐのかという基本ルールを定めた法律です。
前回の改正から40年たった今、日本の社会構造は大きく変化しました。
それまであたりまえだった三世代同居という光景も見られなくなり、
平均寿命も10歳近く伸び、高齢化率も30%に迫る勢いです。
夫が他界した時に、残された妻がすでに認知症や要介護状態
になっているということも多く、残された妻の暮らしをどう守るのか、
これらライフスタイルや家族の形の変化に対応するため、今回の改正で様々な制度が盛り込まれました。
相続・生前対策専門の司法書士事務所として13年。
ともえみは、様々なスタイルの家族のお悩みに寄り添い、問題を解決してきました。
そんな、ホントにあったトラブル事例から「改正相続法」の使い方を見いきましょう。
ホントにあったトラブル事例 7選
~夫の死後が心配な妻のための相続法の使い方~
事例① 【一般的な家庭】 残された妻が100%相続する遺産分割協議はできるのか?
事例② 【再婚家庭】 前妻の子どもも相続人!? 会ったことのない前妻の子どもを探せ
事例③ 【再婚同士】 私の子、あなたの子、私たちの子。みんな仲良く遺産分割協議できる?
事例④ 【子どもがいない夫婦】 「配偶者居住権」使う?使わない? その前に。
事例⑤ 【音信不通の妻子】 内縁の妻は、「配偶者居住権」「特別寄与料」を使えるか?
事例⑥ 【よくできた嫁】 よくできた嫁は、「配偶者居住権」「特別寄与料」を使えるか?
事例⑦ 【生涯独身】 相続人のいない人のお世話をした私が使える制度はある?
まとめ 新時代の多様なライフスタイルに対応する「やさしい相続」のススメ
本当にあったトラブル事例① 【一般的な家庭】
どなたかが亡くなると「相続」が発生します。
そして、その方の残した「遺産」は、遺言書があれば遺言書の通り引き継がれます。
遺言書がなければ、相続人全員の話し合いが必要。これを「遺産分割協議」といい、
一人でも賛成しない相続人がいるとまとまりません。
これが相続トラブルの原因となるのです。
「お父さんの遺産をキッチリ4分の1ずつ分けてほしい」
と子どもたちが言ってきたらどうなる?
事例①の【一般的な家庭】の場合、配偶者である妻の相続分は2分の1、
子どもたちの相続分は、4分の1ずつです。
ここで、「お父さんの遺産をキッチリ4分の1ずつ分けてほしい」
と子どもたちが言ってきたらどうなるでしょう?
亡夫名義の遺産のうち、
①預貯金を子どもたちに分けて自分は自宅不動産をもらう、
②それでも不足する場合は、妻自身の預貯金から持ち出して払わなければなりません。
③それでも不足する場合は、自宅不動産を売却して分けるという事態もあり得ます。
夫婦の老後の資金にと貯めていた預貯金を、夫の死後すぐ、
子どもたちに渡さねばならないとなると心細いですね。
そんな時には 「配偶者居住権」(2020年4月1日施行)
そこで、残された妻は、
今回創設された「配偶者居住権」を受け取ることで、死ぬまで自宅に住み続けることができます。
「配偶者居住権」は、不動産そのものをもらうよりは、評価が低く、
子どもたちに渡さねばならない預貯金等の金額もおさえられます。
これにより、老後の住まいと生活資金も確保できることになります。
ただ、お母様の扶養義務は、子どもたちにあります。
お母様の老後の資金が不足したならば、
お母様の生活を支えるのは子どもたちです。
最終的にお母様が他界された後は、
お母様の遺産は、子どもたちに引き継がれます。
そう考えると、わざわざ「配偶者居住権」を使わずとも、「お父様の遺産は、すべてお母様に受け取ってもらう」という「遺産分割協議」をしてもよさそうです。
「残された妻が100%相続する」遺産分割協議も可能
相続法には、「相続人」と「相続分」が定められています。
ただし、この「相続分」は必ずしも「キッチリ」請求しないといけないものではなく、
相続人全員が納得すれば、「母が全部」「子どもたちはゼロ」という遺産分割協議も有効なのです。
愛と調和に満ちた「令和」の時代において、
感謝と、譲り合い、支え合う心で
やさしい遺産分割協議をされる方がたくさんいらっしゃるのも事実です。
本当にあったトラブル事例② 【再婚家庭】
夫が他界した時、相続人は、配偶者である妻と子ども。
相続分は、妻が2分の1、残りの2分の1を子どもたちの頭割りになります。
この時、前妻との間の子どもも、後妻との間の子も、同じ夫の子であることには変わりありません。
前妻の子どもも相続人!?会ったことのない前妻の子どもを探せ
残された妻が、夫の遺産を相続するには、
会ったことのない前妻との間の子を探し出して、連絡をとるところからスタートしなければなりません。
見つけ出しても果たして話し合いができるでしょうか?
心配な事例です。
本当にあったトラブル事例③【再婚同士】
夫が他界した時、相続人は、配偶者である妻と子ども。
相続分は、妻が2分の1、残りの2分の1を子どもたちの頭割りになります。
私の子、あなたの子、私たちの子。みんな仲良く遺産分割協議できる?
この時、前妻との間の子どもも、後妻との間の子も、同じ夫の子であることには変わりありません。
また、妻の連れ子と夫が養子縁組していた場合は、実子と同じ扱いとなり、その子も入れての頭割りとなります。
私の子ども、あなたの子ども、私たちの子ども、合計4人と残された妻である私。
みんなで仲良く、夫の遺産分けの話し合いができるでしょうか?
こちらも心配な事例です。
離婚歴のあるカップルは要注意!相続トラブル3つのポイント
ライフスタイルの多様化により、
再婚カップル、再婚同士のカップル、連れ子のいるカップル、養子縁組しているカップルなどなど、家族の形も様々です。
一人一人が自分らしい人生を謳歌できるのは素敵なことですが、相続の場面となると別。
相続人となる人たち全員が、仲良く話ができる場合は少ないと思われます。
事例②【再婚家庭】、事例③【再婚同士】など、夫や妻に離婚歴がある場合は、「誰が相続人になるのか」を、今すぐ確認してください。
そのうえで、次の3つのポイントをチェックしましょう。
≪相続トラブルになりやすい3つのポイント≫
①遺言書がない場合、相続人全員での話し合いが必要【遺産分割協議】
②相続人間の話し合いがまとまらない、話し合いができない
③相続人が自分の持ち分をピッタリ分けてと主張してくる
いかがでしょう?
当てはまりそうな場合は、
夫が元気なうちに「遺言書」を書いてもらうことがオススメです。
本当にあったトラブル事例④【子どもがいない夫婦】
事例④【お子さんがいないご夫婦】も、夫が元気なうちに、「遺言書」を書いておいてもらわないといけない代表
例といえます。
「配偶者居住権」使う?使わない?その前に。
平成30年の改正(2020年4月施行)で「配偶者居住権」ができたのだから、
家を追い出されることはないんでしょ?と高をくくってはいけません。
「配偶者居住権」を設定するにも「遺産分割協議」が必要なのです。
夫亡き後、残された高齢の妻が夫の兄弟や甥、姪と「遺産分割協議」がきちんとできるでしょうか。
事例②、③との違いは、自分の味方になってくれる子どもが一人もいない点にあります。
ぜひ、今回の改正を利用して、夫に遺言書を書いてもらいましょう。
今回の改正相続法を使えば、遺言書で妻に「配偶者居住権」、
甥に「負担付所有権」を相続させるということを記載することもできます。
そうすることで、妻が死ぬまで自宅に住み続け、他界後は、夫の血族へ自宅が戻るという
道筋をつけることも可能です。
残された妻の「介護」や「認知症」まで見据えた「道筋」を作る
ポイントは、残された高齢の妻の介護や認知症対策まで見据えた道筋をつくっておくこと。
子どもがいないので、残された妻の介護や認知症になった後、誰が頼りになりそうか。
夫が元気なうちに夫婦で話し合い、法的な組み立てまで実行しておきましょう。
遺言だけでなく、家族信託や任意後見など様々な制度ができています。
きっとお2人にピッタリのプランが見つかるはずです。
参考記事) 夫の兄が「おひとりさま」 私が面倒を見なくちゃだめ?!
本当にあったトラブル事例⑤ 【音信不通の妻子】
事例⑤【音信不通の妻子】の場合、法律上の相続人は、40年前に出て行った音信不通の配偶者と子どもです。
事実婚状態のパートナーは、相続人に当たりませんので、相続分は0となり、故人の遺産を相続することはできません。
「相続人」でない「親族」も、「特別寄与料」を請求できるようになった
今回の改正で、相続人でない親族が、被相続人の介護などを無償で行った場合に、
その貢献に応じて、相続人に金銭を請求できるという「特別寄与の制度」が創設されました。
今まで相続人でない、長男の嫁や、孫、甥姪などが、義理の父母、おじいちゃん、おばあちゃん、伯父さん、
叔母さんの世話をどれだけ頑張ったとしても、一円ももらえなないことから、残念な気持ちになった方、
相続トラブルになった方もたくさんいらっしゃいました。
その点を考えるととても嬉しい改正といえます。
参考記事)夫亡き後も真面目に頑張る長男の嫁が「死後離婚」を選択した理由~愛子さん(61歳)のケース~
「親族」でも「相続人」でもない人は、何も請求できない
それでは、無償でパートナーの介護に尽くした事実婚の妻は、「特別寄与料」を請求することはできるでしょうか?
改正相続法では、「親族」が無償で労務提供をした場合と規定されています。
「親族」とは、6親等内の血族と3親等内の姻族のこと。
事実婚の夫婦、同性のパートナー、認知していない子どもや友人や知人は、「親族」に含まれません。
したがって、「相続人」にも「親族」にも含まれない事実婚の妻は、
どれだけパートナーの介護をがんばったとしても、何も受け取ることはできません。
相続人や親族でもない方が介護の負担を担っているときこそ「遺言書」
4人に1人が高齢者の時代。
親族以外の方が介護の負担を担っているということもよくあることです。
相続人や親族でもないのに誰かの介護を頑張っている方こそ「生前対策」が必要です。
決して見返りを求めてされているわけではないと思います。
しかし、「親族でないのにお世話している」ことが原因で、トラブルに巻き込まれることもあります。
後から出てきた相続人から
「なぜ勝手にそんなことをしたのか」
「故人の財産を流用していたのではないか」など疑念をもたれ、
訴えられるケースもあるのです。
そのようなトラブルに巻き込まれないよう「やさしい法律上の他人」の方こそ、法的な対策をしておいていただき
たいと思います。
本当にあったトラブル事例⑥ 【よくできた嫁】
今回の改正で、相続人でない親族が、被相続人の介護などを無償で行った場合に、
その貢献に応じて、相続人に金銭を請求できるという「特別寄与の制度」が創設されました。
夫亡き後も夫の両親の面倒をみた長男の嫁が、その貢献をお金で認めてもらえる嬉しい制度です。
事例⑥【よくできた嫁】春子さんは、夫の両親と夫の父名義の家で同居。
夫が他界したあとも、夫の両親と同居し、介護を経て、夫の父母も見送りました。
夫の父の遺産相続。
春子さんは、今回相続人である夫の甥たちから「特別寄与料」として100万円をうけとることができました。
よくできた嫁が、長年暮らした自宅を追われる時とは?
しかし、春子さんは、相続人ではありませんので、夫の父母名義の不動産を相続することはできません。
夫が先に他界しているため、「配偶者居住権」を主張することもできません。
このままでは、長年暮らしていた家を追われることになってしまいます。
「特別寄与料」をいくらにするかは、相続人との「話し合い」で決められます。
甥たちが100万円でなく、春子さんの老後の生活に困らないだけのお金を「特別寄与料」とすることも可能です。
そんなやさしい遺産分割ができるご家族ばかりであればよいのですが、
なかなかうまくはいかないようです。
天国へ行く順番やタイミングは、誰にもわかりません。
いつ、誰が、どの順番で天国へ行ったとしても、
万事良好心配ご無用な解決策を考えておきたいものです。
参考)妻たちの「死後離婚対策」必要度チェック 夫の親と同居してる場合は、100%
本当にあったトラブル事例⑦ 【生涯独身】
充実のおひとりさまライフを送っていた、事例⑦【生涯独身】の花子さん。
そんな花子さん他界した時、相続はどうなるのでしょうか?
「相続人不存在」なら「遺産」は国庫へ。相続人はだれ?
相続法で定められている相続人が誰かを見ていきます。
花子さんが他界した時、相続人は、配偶者と子どもです。
そして、子どもがいない場合は、親、祖父母、曾祖父。
さらに、親世代がいない場合は、兄弟。
兄弟がいない場合は、兄弟の子どもが相続人となります。
花子さんの場合、配偶者と子どもはおらず、親世代、兄弟も先に他界しています。
兄妹の子もいませんので、ここで花子さんは、「相続人不存在」ということになります。
「相続人不存在」の場合、花子さんが残した遺産は「国庫」へ帰属することになります。
生涯独身の人を面倒みた場合「特別寄与」は請求できる?
それでは、姉妹のように仲の良かったエミ子さんはどうなるのでしょう?
エミ子さんは、弟の妻=2親等姻族にあたり、花子さんの「親族」です。
親族であるエミ子さんが無償で、花子さんの介護などをしていた場合は、「特別寄与料」をもらえそうです。
しかし、「特別寄与料」は「相続人」に対して請求できる権利。
今回のように、「相続人不存在」の場合は請求できません。
「相続人がいない」場合は、「特別縁故者」として請求ができる!
そのかわり、民法では、「特別縁故者」という制度を設けています。
故人に相続人がいない場合、
①被相続人と生計を同じくしていた者
②被相続人の療養看護に努めた者
③その他被相続人と特別の縁故があった者
は、「特別縁故者」として、相続財産の分与の請求をすることができるのです。
特別縁故者として相続財産の分与を請求するには?
≪特別縁故者が相続財産分与の請求をするまでの流れ≫
①家庭裁判所に相続財産管理人選任の審判申立て
②相続財産管理人が被相続に対する債権者などがいないか公告を行う
③相続財産管理人が相続財産を精算する
④相続財産が残らなければここで終了
⑤相続財産管理人が相続人を探す公告を行う
⑥相続人が出てきたらここで終了
⑦相続人もおらず、相続財産が残った場合は、「特別縁故者への財産分与の申立て」ができる
⑧裁判所が財産分与を認めてくれれば、相続財産の分与を受けることができる
見るからに大変そうですね。
最後まで、約2年程度かかります。
また、相続財産管理人選任を申立てする際には、裁判所へ「予納金」を支払う必要もあります。
色々な手続きを経て、最終的に「特別縁故者」と認められたとしても、
いくら相続財産の分与をしてもらえるか分かりません。
生涯未婚率上昇中!
独身を謳歌するなら、相続人がいるかをチェック!!
多様化するライフスタイル、変化する家族のカタチのひとつとして「生涯未婚」のおひとりさまライフを送る方が増えています。
ひとり一人が、それぞれの生き方を選べるようになったのは嬉しいことなのですが、「相続」の場面では別。
「相続人」が誰かをチェックしておきましょう。
自分に「相続人がいるか」「いないか」、
最後のお世話をしてくれた方が「相続人」か「親族」か「法律上他人」か、
でそれぞれに与えられる権利が違ってきます。
残される方が大変な思いをしないよう「生前対策」をしておいてあげましょう。
≪相続人がいるかチェックフローチャート≫
新時代の多様なライフスタイルに対応する「やさしい相続」のススメ
人生100年時代。
変わる家族の形を反映した改正相続法。
家族がいても、いなくても
介護する側もされる側も、
相続する側もされる側も
みんな仲良く笑顔広がる「令和」の時代に
「相続法をやさしく使う」きっかけとなれば嬉しいですね。
【新時代の「やさしい相続法」の使い方ポイント】
① 相続人がいるか、いないかのチェックをしておく
② 誰が相続人かのチェックをしておく
③ 相続人全員で話し合いができるかチェックしておく
④ 相続人全員が合意すれば、0対100の分割も可能
⑤ 自分の今後と、残される人の今後の生活、認知症や介護まで見越したプランを考え、実行しておく