認知症になったら実家が売れないってホント?
A子さんのお母さんは82歳。3年前にお父さんが他界してから実家で一人暮らしをしています。最近物忘れがひどくなり、ボヤ騒ぎを起こしたことから、このまま一人暮らしをさせるのが心配になり、A子さんの家で一緒に暮らすことにしました。
まだまだ、自分でお買い物や身の回りのこともできるお母さんは、孫の面倒を見ながら新たな生活をスタートすると張り切っています。しかし、A子さんは将来お母さんが体調を崩し、介護が必要になった時の費用の負担のことを心配し、相談に来られました。
ご家族の状況及び資産状況
お父さんは亡くなられており、お母さんはご実家でお一人暮らし。
資産は、空き家になるご自宅と預貯金が約500万円です。
A子さんは、お母さんとの同居は決めたものの、すぐに実家を売るつもりはなく、お母さんの調子が悪くなったら実家を売却して介護や医療費に充てたいと考えています。
このまま何もしなかったらどうなる?
お母さんが認知症と診断されてしまうと、資産が凍結してしまいます。
財産には「名義」があり、本人名義の財産は本人しか使えないのが原則だからです。
定期預金の解約や、株や投資信託の売却等は、本人の意思が確認できなければ銀行や証券会社は取引をしてくれません。
特に不動産の売買取引には、不動産会社担当者や司法書士、金融機関の担当者といった様々なプロフェッショナルが関与し「本人の意思確認」を行うことで取引の安全を図っています。
そのため、このまま何もしないと、いざという時に売却ができないということが起こり得ます。
家族信託を用いた解決策
A子さんは、お母さんが元気なうちに、空き家になる「実家」と実家の管理に使うお金100万円を信託してもらうことにしました。
委託者(財産を托す人) :お母さん
受託者(財産を託される人) :A子さん(長女)
受益者(信託の利益を得る人):お母さん
信託財産(預ける財産) :①空き家になる自宅、②100万円
信託の目的 :①お母さんの安心な老後の生活の実現、②円満な相続
受託者の権限 :実家の管理、売却、売却代金の管理とお母さんの生活・介護・医療費の支払い
信託終了時 :お母さんが他界時
家族信託の結果
①お母さんが信託せずに手元に置いた「お母さん名義のお金」は、お母さんが自由に使うことができる。
(但し、お母さんが認知症になった場合の凍結リスクはあります。)
②空き家となった実家の管理(固定資産税や掃除、近所づきあい)が負担になった場合に、A子さんがA子さんのタイミングで売却して負担を軽減できる。
③実家を売却して得た代金は、A子さんの個人資産とは「別口」で管理され、お母さんの生活や介護費用に充てることができる。
(お母さんが認知症になっても凍結しません。)
④A子さんはお母さんの資産を預かっているだけなので、贈与税がかかることはない。
⑤A子さんはお母さんの資産を売却しただけなので、譲渡所得税がかかることはない。
(お母さんにかかります。)
⑥信託財産の信託終了時(お母さんが他界した時)の扱いについてまで契約で定めておけるため、お母さんが他界した時に資産が凍結して葬儀費用が出せずに困るということがない。
親と同居を決意したら「家族信託」で将来の介護費用に備えよう
A子さんは、お母さんが元気なうちに家族信託契約をしておくことで、実家不動産という大きな資産がいつでも流動化できるようになり、将来の介護費の負担をどうするのかの心配がなくなりました。
お母さんも、空き家になる自宅不動産の管理や処分をA子さんにお願いできてほっと一安心。気楽な毎日を送れるようになりました。
親と同居を決意した時は、様々なことを整理整頓するチャンスです。
「家族信託」で将来の不安を解消することを、選択肢の一つに加えてみてはいかがでしょうか?
<豆知識>不動産売買取引の流れと本人確認
不動産売買取引の現場では、以下のような本人確認がおこなわれています。
①不動産売買仲介依頼時・・・不動産の所有者と売買仲介の申込者が「同一人物」かを確認されます。
②売買契約締結時・・・「犯罪による収益移転防止に関する法律」並びに不動産会社の規定に基づいた意志の確認がおこなわれます。
③売買代金決済時・・・司法書士による本人確認と本人の意志確認がおこなわれます。
不動産売買取引による厳格な本人確認により、
・知らない間に「地面師」などの詐欺にあい、自分の家を売られていた
・知らない間に子どもが親の権利証と実印を持ち出して家を売却していた
といった事故を水際で防ぐことができるのです。